地方都市における「特定技能」採用

新型コロナの影響により、2年弱もの期間で政府の水際対策による入国が止まり、母国で待機する「技能実習生」たちが何万人もおります。
この間、規定の期間を終了しても帰国できずにいた「技能実習生」たちは、母国政府のチャーター便などにより徐々に帰国の途につき始めました。
この様な状況の変化は、どの様な弊害に繋がっているのでしょうか?

新型コロナ禍であっても、農業をはじめとした人手が必要な業種では、深刻な人手不足の状況となっております。
同様な現象は、緊急事態宣言が急遽発表された「外食業」や「宿泊業」でも同様です。
目先の人手が不足することで、本来得られる利益の確保が危ぶまれる状況下では、バブル期の採用と同じように「人材の獲得合戦」が勃発しております。
具体的には、大都市企業による「基本給の高騰などの待遇面の差別化」です。
こうなると、地方都市の中小企業では勝ち目がありません。

ご存じの通り、「特定技能」の制度設計は、採用可能な14業種内での「職業選択の自由」と「転職が可能」です。
日本人ほど自由では無いとはいえ、「技能実習生」で慣れ親しんだ企業から見ると、特に後者の「転職の自由」は大きな不安材料となります。
期待をかけて、費用と労力をかけて採用をしても、日本人同様に短期間で転職してしまっては苦労が報われない。という思いです。

ここで誤解があってはいけませんので少々申し上げます。
日本人同様に「勤め先に魅力が無ければ転職する」こと自体を問題と言っているのではありません。
これは、異文化共生時代を進める上では、人権を擁護する大切な権利だと思います。
ただ、我々は静岡県という地方都市の協同組合として、傘下の組合員(中小企業)への支援事業を行う立場です。
結果として、組合員の不利益になることを「仕方がない」で片づけることは出来ません。
この様な立場で今後の「特定技能」採用に向けた方向性が重要と考えているのです。
具体的には、地方都市の中小企業が、先のような失望を回避するために有効な施策を講じ、採用後の定着率を上げるための方向性を、傘下の組合員へ示す責任があると感じております。

マンサポが考える「特定技能」採用の方向性

《大前提》

1.「技能実習」から「特定技能」への道

「外国人技能実習生」の採用時点では、日本で働きたいと願う若者たちが、たくさん応募をしてくれます。
これは、制度の趣旨は別として、応募者には「日本でお金を稼ぎたい」という目的があるからです。
そして、現実的に彼らの多くは高校卒業レベルです。
よって、今までの日本国の制度では「技能実習生」以外で日本へ行き「お金を稼ぐ」ことが非常に厳しいため、選択肢が他にありませんでした。
この様な、目的達成のために集まった応募者たち(マンサポでは、採用人数の3倍強)の中から、面接等により採用者を決められるのは、基本的に採用側の企業です。

そして、「特定技能」が誕生した現在、採用された「技能実習生」たちが3年間(技能実習2号)の終了を迎えるにあたり、多くの者たちの「日本でお金を稼ぎたい」という目的に変わりはありません。
よって、自分にとって「より高い目的の達成=お金が稼げる会社」を選ぶことは当然のことです。
つまり、「技能実習生」を選ぶのは採用側の企業であり、「特定技能」では採用側の企業が技能実習生たちから選ばれる立場へと逆転するわけです。

2.「技能実習生」の動向の変化

転職を考えている「技能実習生」の多くは、実習実施者(実習先企業)や監理団多(組合等)へ事前に意思表示をすることは無く、転職先が決まるまで内緒でことを進めます。
これは、事前に話すことで妨害を受けたり、阻止されることを恐れるからだと思います。
マンサポでは、3年間頑張った「技能実習生」が転職を希望した場合は、必要な書類などのサポートは行うこととしております。
しかし、正直な気持ちとしては、「隠さずに事前に相談をしてほしかった」となります。
事前の相談があれば、企業側へ待遇面などの相談をすることで、組合員企業の要望へも応えられる可能性があるからです。しかし、ここは仕方がないでしょう。

3.「特定技能」の募集をめぐる現状

マンサポでは、ベトナム人の技能実習生を扱っております。
既に、上記のような現象が出始めました。
この様な状況は、目にもコラムで述べました通り、「特定技能」の制度発表時点で想定しておりましたが、先に述べた通り、新型コロナの影響により急速に進みました。
そこで、いくら自分にとって「より高い目的の達成=お金が稼げる会社」を選ぶとはいえ、情報無くして転職先を探すことは不可能に近いです。
求人情報がFacebookなどのSNS(会員制交流サイト)によることは、容易に想像が付きます。
そこで、ベトナム人の交流サイトをのぞいてみました。
そこには、想像を遥かに上回る求人情報で溢れていました。
求人内容は、首都圏を中心とした企業から「高額報酬」を前面に出したもの(中には、職業紹介に関する法律違反や詐欺まがいと感じられるものも)が多く目につきました。
母国語で、高額な待遇で求人している企業の情報は、「お金を稼ぐ」ことだけが目的の者にとっては魅力的ですね。

《マンサポの具体策》

上記のような背景がある以上、地方都市で技能実習生から特定技能、そして定着率を上げるための具体策として、以下の基本線を決めて組合員へお伝えすることといたしました。

  • 基本給または残業時間(合法の範囲)で、支給額が首都圏とそん色を無くすことが出来るのであれば、自社の実習生だけに限らずに求人を出すことも推奨する。
  • 自社で採用した「技能実習生」から選ばれるような関係を築き、多少の待遇面でのマイナスを埋めることで、相思相愛の結果とした採用は望ましい。
  • 上記が困難と思われる場合は、あえてリスクを伴う「特定技能」の採用をあきらめるか、転職覚悟で採用に挑む。

《マンサポ独自の制度設計》

紹介者の転職リスクを最小限にする制度設計として、留学生を含めた基本方針

  • 母国の送り出し機関と、募集段階での人物的な情報交換や人生設計など、応募者の人柄や目的意識など、人と人のつながりを強固とする試みを行います。
  • (留学生から特定技能のケース)提携先の学校と、留学生の進路先として「特定技能」を加えることで、紹介者の人物的な情報を先生方から得た上での紹介に特化します。
  • 今は「帰国困難者」という立場で、帰国できずにいる人たちの救済的な状況もありますが、その様な人たちを片っ端からリスト化して紹介する業者も増えています。マンサポでは、人物的な情報(性格、能力、モラル、等)の分からない人物の紹介は避け、絶対は無いながらも、「採用をして良かった」と思ってい頂けるような期待の持てる、人物情報が伴った人の紹介に特化します。